2024年3月28日木曜日

NHKスペシャル「邪馬台国の謎に迫る」

NHKが邪馬台国の最新研究番組をやると聞いて、すかさず録画予約。「古代史ミステリー 第1集 邪馬台国の謎に迫る」(3月17日放送)を見た。

この番組がNHK教養番組やお役所広報映像によくある、卑弥呼と邪馬台国についてあまり知識を持っていない女子大生が、ミュージアムへ話を聞きに行くというスタイル。疑問に答えるというスタイル。この探偵事務所の所長のようなたたずまいの女性が、ときに卑弥呼になるという謎の構成。
事前に予期してなかった。原菜乃華ちゃんが出てるということを。これはうれしいサプライズ。

自分はこれまでに読んで学んだ知識から、まあ邪馬台国は菊池市のあたりか、日田か、宇佐だろうなと思ってた。だいぶ九州説に傾いていた。
だが今回のNHKスペシャルは近畿派が盛り返す内容。
纏向から発掘された30年以上の年輪を持つ木材の酸素同位体を、これまでに知られた酸素同位体のグラフ年表と合致する場所を探す…という手法によれば、纏向に私用された木材が切り取られた年代が231年と判明。これは、卑弥呼が親魏倭王の称号を得た景初二年(239年)と8年しか違わない!
自分、今まで纏向遺跡は卑弥呼と邪馬台国の時代よりも100年下ると思ってた。卑弥呼と初期ヤマトの纏向は同時代だと判明?!
だが、邪馬台国と争っていた狗奴国はどこ?自分のイメージでは南にあるように想ってたけど、狗奴国は東日本?!それって、絶えず争ってたにしては遠くないか?

中国の研究家たちにも話を聞く。秦が滅んで三国志の時代。多くの中国人たちが蓬莱の国を目指して東に移動したはず。日本に技術を持ち込んだに違いない。
古墳は違う性質の土を層にして盛り上げる技術を使うと、物理的衝撃にも雨風にも強いことを実験で確かめてた。おお、だから1700年経っても箸墓はそこにあるのか。
かつては漢籍を読むしかなかった邪馬台国研究。戦後に考古学が加わって、最近は衛星画像からAIでまだ発見されてない古墳や遺跡を調査できるとか、時代は変わった。今後数年の間にさらにいろんな発見があるに違いない。
この番組を見て、シシド・カフカさんについてちょっと調べてみたら、この人はもう38歳だったのか!メキシコ・シティ出身だったのか!びっくり。
すごく卑弥呼のイメージにぴったりだった。
卑弥呼と邪馬台国について、無知な女子大生にいろいろと教えてくれたシシド・カフカ研究員だったのだが、卑弥呼に親魏倭王の称号が送られてから、宋書倭国伝に「倭の五王」が登場するまでの150年の間に、日本列島で何が起こっていたのか?については答えられるものを持っていないようで口をつぐむ。
そして番組は次回予告へ。自分、古代史でいちばん関心持ってるテーマが「邪馬台国」と「倭の五王」なので当然見る。

これが謎の「倭の五王」を日本書紀の天皇たちに当てはめるパズルは一切スルー。倭の外交関係をメインにした番組でちょっと失望。

2024年3月27日水曜日

久保州子「アルプスの画家 セガンティーニ」(2019)

久保州子「アルプスの画家 セガンティーニ」(2019 論創社)という本があるので読む。以前からセガンティーニに関する伝記読み物的な本を探してた。

ジョヴァンニ・セガンティーニ(Giovanni Segantini 1858-1899)という画家は明治・大正の日本にも早くから伝えられていた。倉敷の大原美術館に「アルプスの真昼」という画が、国立西洋美術館には旧松方コレクションだった「羊の剪毛」という画もある。
だが、ゴッホ、モネ、ミレーといった画家に比べるとあまり知名度がない。クリムトやシーレよりも知られてないかもしれない。

自分もスイスの風景を描いた画家という以外に何も情報がなかった。自分がセガンティーニを初めて知ったのがショルティ&CSOのマーラーNo.5のCDジャケットの絵として。あれはウィーン・ベルヴェデーレ宮にある「悪しき母たち」という有名な絵画。(セガンティーニの死後にユダヤ商人が購入し寄贈)
12世紀スリランカの学僧パンダヴァジャーリの詩集「涅槃」にインスピレーションを受けた象徴主義的な1枚。とはいっても当時の欧州に仏教知識があったわけでなく、ちゃんとした翻訳でもなかったらしい。

オーストリア帝国領内のアルコという村で生まれたジョヴァンニは幼少時から極貧。母は7歳の年に死亡。家族は生活ができず流浪。てか老父アゴスティーノが日々の糧を稼ぐこともできていない。

そして父が大道芸巡業先で死亡。息子は1年父の帰りを待っていたが孤児となる。
オーストリアとプロイセンの戦争によってアルコはイタリア領へ。オーストリア国籍を離脱したのだがイタリア国籍を取得する手続きができずにジョヴァンニは生涯無国籍。

天然痘に感染しミラノ市立マッジョーレ総合病院の隔離病棟へ。そして浮浪児となり少年院。素行不良。
兄と姉がわりと性格が酷い。幼いジョヴァンニの面倒を見るどころか面倒に思う。
ジョヴァンンは読み書きもできず、計算どころか数を数えることもできない。このことは生涯放蕩と借金生活への原因となる?

だがなぜか絵画の才能を発揮。21歳の習作「聖アントニオ教会の聖歌隊席」の段階で天才の所業。
やがてグルビチ画廊で週給を得る画家へ。セガンティーニは、ブレア美術アカデミーで席を並べたカルロ・ブガッティ(ブガッティ家の御曹司)の妹で「ビーチェ」ことルイジア・ブガッティ(高級車ブガッティのエットーレ・ブガッティの叔母にあたる)と結婚するのだが、セガンティーニは無国籍だったので正式な結婚じゃなかった?!

ミレーに倣って写実的な農民画などを書く。25歳のときの「湖を渡るアヴェ・マリア」で国際的な名声。身分証がないのに各地を転々としてスイスに移住。スイスの村々もよそ者に対する目は厳しい。

35歳ぐらいになるとセガンティーニの名前は欧州各地に轟く。空腹だった浮浪児はいつの間にかヨーロッパで最も高額で作品が取引される画家になっていた。その反動で贅沢三昧。いつも借金の手紙。

1900年パリ万博に向けて、シャーフベルクの山小屋で「アルプス三部作」の取りかかっていたとき突然腹痛。健康に自信があったセガンティーニは医者を呼ばなかったのだが、苦痛に七転八倒。医者が呼ばれたときはすでに手遅れ。急性腹膜炎によって死亡。41歳での急逝。

初めてセガンティーニについて詳しく知れた本だった。セガンティーニの絵画がパキっと明るいのは独自の「分割画法」という描画法によるものだということも知った。

2024年3月26日火曜日

ジェフリー・アーチャー「レンブラントをとり返せ」(2019)

ジェフリー・アーチャー「レンブラントをとり返せ ロンドン警視庁美術骨董捜査班」(2019)を読む。戸田裕之訳新潮文庫(2020)で読む。
自分がジェフリー・アーチャーを読むのはこれで2冊目。前回読んだ「大統領に知らせますか?」が1979年の作なので、今作とは40年の隔たり。
NOTHING VENTURED by Jeffrey Archer 2019
なんだかだいぶ原題と違う。いろいろ盛ってる。
しかし、作者から読者へのまえがきによれば、「クリストン年代記」に登場する作家が書いた連作小説の主人公「ウィリアム・ウォーリック」が、平巡査から警視総監に登りつめるシリーズ第1作になるらしい。

なのでこの物語は1979年7月から始まる。主人公ウィリアム・ウォーリックは有名な刑事事件弁護士で貴族の父を持つ。パブリックスクールからキングズカレッジに進み、美術史を専攻しカラヴァッジョを研究。
父ジュリアンの望みは息子がオックスフォード大学へ進んで法律を学び、自分の法律事務所で仕事を手伝ってもらうこと。
しかしウィリアムはオックスフォードのカレッジに入学を認められているのに、大学卒業後は父の反対にもかかわらずロンドンの警察学校に入ってしまう。ウィリアムは幼少のころから名探偵になりたかった。

この本の序盤は、少年聖歌隊員のような爽やか青年ウィリアムの平巡査としてのパトロール風景。
そして2年後に昇進試験(自信ないとか言ってたのに圧倒的1位の成績)で刑事になり、大学で美術史を学んだことから美術骨董捜査班(刑事が4人しかいない)へ配属。
英国の育ちの良いお坊ちゃんが、カンと嗅覚の良さで、大物名画窃盗犯フォークナーを追いかけ、手柄を立てる…という80年代ドラマ。

「大統領に知らせますか?」が新米FBI捜査官の話だったのだが、こちらはスコットランドヤードの新米刑事の話。主人公青年の雰囲気がすごく似てる。美女と知り合ってムフフという展開もそのまま。たぶんこの主人公もハンサム。これが英国刑事もののデフォか?

英国の警察官も言葉遣いが汚かったり粗暴だったりするのだが、日本と決定的に違うのは、育ちの違う貴族階級がいること。話を聴きにいってレストランで食事とか、日本の警察官はたぶんできない。マナーも作法も知らない。ワインの選び方もわからない。もしかして少しは警察学校で教えてるのか?

あと、刑事って自身が出世していくために、自分以外の警察官が手柄をたてるのが面白くないものらしい。だから刑事ドラマってやたら自分の手柄にこだわってしゃしゃり出て行って勇み足して冤罪生み出したりするのか。

ウィリアムくんが新人でうっかりもあるのだが有能。レンブラントをとり返すために適切に動いたし刑事として活躍したと言える。
終盤の5ぶんの1は、ウィリアムの婚約者となった美術館(7年前にレンブラントを盗まれた)の調査助手ベスの父親(冤罪の殺人で終身刑)の再審法廷と、レンブラント窃盗犯フォークナーの陪審員裁判の法廷でのやりとり。
この窃盗犯との決着のつき方が英国らしい。シリーズの今後を想わせるおしゃれなラスト。

2024年3月25日月曜日

加藤小夏「余命1ヶ月って言ったじゃん」(2024)

加藤小夏「余命1ヶ月って言ったじゃん」(3月16日にテレ東系で放送)というスペシャルドラマに出演するというので録画チェック。
これはテレビ愛知開局40年のために制作されたSPドラマ。主演は中尾暢樹。原案・脚本は深見シンジ。広瀬基樹(オルゴール)のプロデュース。監督は熊谷祐紀(映画「ラーメン食いてぇ」の人か!)。
土曜日の夕方16時という謎の放送時間。他に見るものがなくてチャンネルをつけてダラダラ見ていた視聴者層を、テンポよい展開で惹きつけるようなドラマ。

加藤小夏はヒロイン国木田瑞穂。どちらかというと脇役。マンガ雑誌編集部で働く女子。遅刻する時はこまめに現在地を報告してくる律儀キャラ。最初の登場の仕方が面白い。
主人公27歳青年中川(中尾暢樹)はあらゆることに保守的で安全策を取る。ファミレスの新メニューも試さなければ、読んだことのない他人が面白いというマンガも読まない。ごく普通のみを好む。
そんな中川がファミレスで急に頭痛で気を失い、何を間違ったか1か月の余命宣告を受ける。

そこから真面目だった青年は逆張り。迷惑系ユーチューバーになり、学校をバイクで走ったり、打ち上げ花火を上げたり、カップルに絡んだり。
しかし、余命宣告は間違いだった。それどころか健康に何も問題ない。あの医者は板尾創路という時点でうさんくさかった。こんなの、藪医者どころか詐欺師じゃん!って思ってたらまさにそうだった。
青年の人生は転落暗転。命は助かったが、これでは死んだも同然。
そんな主人公を正しい方向に導くのがヒロイン。青年にはそんな幼なじみ女子が必要。
それにしても加藤小夏が華奢でかわいい。スーツが似合う。

今まで自分は加藤小夏を他人に説明するとき「令和の本上まなみ」とか「藤吉夏鈴系」と説明してた。最近、沢尻エリカ主演TBSドラマ「タイヨウのうた」第1話を見て、佐藤めぐみの演技のテンションと同じだなと感じた。
このドラマ、ローカル局制作にしてはキャストが豪華だなと感じた。大久保佳代子さんって27歳息子がいる役やってんの?
あと、渡辺哲さんがだいぶ年取ったなと。自分は「TRICK」での「哲、この部屋」か、「冷たい熱帯魚」でのヤクザ役ぐらいしか見てないけど。
このドラマ、令和を生きるZ世代にありがちな問題を扱ってる。SNSでハメを外してデジタルタトゥーとか。それでいて展開が予想外でオフビートのドタバタがテンポ良くて面白かった。濱田龍臣、金子みゆ(元LinQなのか)といった脇役キャラもすべて良かった。合格点どころか傑作。
加藤小夏オタとして制作スタッフに感謝申し上げたいほど。
PS. あと、三池崇史監督がiPhone15Proのみで撮影実写化した手塚治虫原作「ミッドナイト」ショートムービーがすごすぎる。こんなのCMとして制作して無料で公開とかappleはすごすぎる。
加藤小夏ヒロイン登場シーンの意外性、カーチェイスとドタバタ、三池監督本人登場、見どころ満載。
柳ヶ瀬の街がまるで70年代、80年代の香港のようだった。ブルース・リー映画の雰囲気もあった。
これからの世代の学生たちはスマホだけで映画を撮るのかもしれない。

2024年3月24日日曜日

中川右介「国家と音楽家」(2022)

中川右介「国家と音楽家」(2022 集英社文庫)を読む。この著者の本は何を読んでも知らないことを教えてくれて面白いので読む。
「週刊金曜日」誌に2011年4月29日号から2013年4月5日号まで隔週連載され2013年10月に七つ森書館より刊行。第3章と第4章を書き下ろし加筆したもの。

国家と政治に利用されたクラシック演奏家たちがテーマの一冊。
自分の知るかぎり、クラシック音楽の名演奏家の演奏会プログラムとキャリアを詳細に見ていくことで、20世紀現代史を解説してくれる歴史読み物ライターは中川右介しかいない。
以前に読んだ「戦争交響楽」(2016 朝日新書)とだいぶかぶってる印象だったのだが、それでも知らないことを教えてくれる。

第1章「独裁者に愛された音楽」
ヒトラー、フルトヴェングラー、ワルター、カラヤン、バイロイト音楽祭を扱う。これはこの著者の本に何度も登場テーマなので、それほど新鮮味はなかった。

第2章「ファシズムと闘った指揮者」
トスカニーニとファシズムの戦い。これも以前読んだことがあって、ほぼ知ってる知識をなぞる読書。

第3章「沈黙したチェロ奏者」
パブロ・カザルスとフランコ政権がテーマ。カザルスは自分が思ってたよりも昔からスター演奏家だった。アルフォンゾ13世国王とは幼少時にいっしょに遊んだ間柄?!

第4章「占領下の音楽家たち」
ドイツに占領されたフランスでのアルフレッド・コルトーシャルル・ミュンシュ
スターピアニストのコルトーも、スター指揮者のミュンシュも自分はあまり聴くことがない演奏家なので、初めて知ったことばかり。

ストラスブールのドイツ系フランス人ミュンシュは第1次大戦ではドイツ軍兵士として出征。コルトーはスイス出身だがフランス軍に志願。よく第2次大戦後まで生き残った。
ミュンシュはライプチヒ・ゲヴァントハウスでコンサートマスターになり、首席指揮者フルトヴェングラー、ワルターの元で学ぶ。解放後のフランスで指揮者として活躍。
だが、ヴィシー政府の行政に積極的に関わったコルトーはドイツ協力者とみなされ戦後は演奏活動が妨害されたりもした。

第5章「大粛清をくぐり抜けた作曲家と指揮者」
ショスタコーヴィチスターリンを扱う。これはわりとよく知ってると思ってたけど、やはり知らないことも多かった。
トゥハチェフスキーと親しかったショスタコーヴィチ。トゥハチェフスキー逮捕後の取り調べが「後日」となったのだが、後日出頭すると尋問した係官が逮捕されててショスタコーヴィチは無罪放免になってたって知らなかった。よく大粛清時代を生き延びてくれた。

あと、取り扱いが危険視されたショスタコーヴィチの第5交響曲初演で名を挙げたムラヴィンスキー。父は弁護士(皇帝直属諮問機関)で母は貴族。
父方の叔母がマリインスキー劇場のプリマドンナ・ソプラノ歌手ジェニー・ムラヴィナ。もうひとりの叔母(父の異父妹)がレーニン時代の女革命戦士アレクサンドラ・コロンタイ?!それ、ウィキにも書いてない情報で初めて知ってびっくり。

第5、第7交響曲で復権できたショスタコーヴィチはハチャトゥリアンとソ連の新国歌を共作。最終選考に残るのだが、スターリンとの面談で手直しにかかる時間を聴かれ(これがショスタコーヴィチがスターリンと直接話をした最初の機会)、ショスタコーヴィチ「5時間はいただきたい」スターリン「国歌の仕事をそんな数時間でできる軽い仕事だと思ってるのか!」と怒られ落選。アレクサンドロフの曲が選ばれる。ハチャトゥリアン「なんで1か月かかると言わなかった!」そんなやりとりがあったのか。

そして、キューバ危機の最中にムラヴィンスキー(ロジェストヴェンスキーも同行)とレニングラード・フィルはアメリカツアー中だった!?
核戦争直前に回避されたその日の夜、ワシントンDCでコンサート。ショスタコーヴィチの第12番とチャイコフスキーの第5番を演奏。ジャクリーン・ケネディもご臨席。知らなかった。
あと、ムラヴィンスキーは60歳以後は当局から嫌がらせの数々を受けた。1981年の来日公演も妨害され流れた。それも初めて知った。

第6章「亡命ピアニストの系譜」
祖国ポーランドを想い続けたショパン、パデレフスキ、ルービンシュタインの3人の偉大なピアニストの生涯。
家族親類をナチに奪われたルービンシュタインは生涯ドイツを許さずドイツ国内で演奏をしなかった。
フルトヴェングラーがシカゴに客演するのも妨害。ルービンシュタインを私淑するバレンボイムがベルリンでフルトヴェングラー没後10年のコンサートをすることにいら立ち、バレンボイムを当惑させた。そんなことがあったのか。

第7章「プラハの春」
チェコスロバキア現代史。チェコ・フィルとターリヒ、アンチェル、クーベリック、ノイマン、4人の名指揮者。そして「プラハの春音楽祭」。

第8章「アメリカ大統領が最も恐れた男」
ジョン・F・ケネディとレナード・バーンスタインはジョンが1歳年上。ともにハーヴァードの同窓生。軍に入隊したジョンはソロモン諸島から奇跡の生還で時の人。バーンスタインは音楽家として有名。そんなふたりのキャリア年表とアメリカ現代史。これも「へえ」というエピソード満載。

アイゼンハワーのアメリカ文化外交で、南米ツアーに向かったニューヨーク・フィルの首席指揮者の2人。師ミトロプーロスと弟子バーンスタインのあまりの人気格差。
そしてソ連公演で親善を果たせず逆にソ連から敵認定されたバーンスタイン。

え、ジョン・レノンが銃撃されたとき、バーンスタインはダコタ・ハウスの自宅で夕食中だったの?!家政婦は銃声を聞いたらしい。それ、初めて知った。

終章「禁じられた音楽」
今もワーグナーを演奏すると拒絶と抵抗にあうイスラエル。タブーに挑戦し続けるユダヤ人指揮者バレンボイム。え、国内でCDが売られるのはかまわない?

文庫巻末解説を加藤登紀子さんが書いている。なんと、「ショスタコーヴィチについては、私にとって無条件に一番身近な音楽家だったので」と語っている。え、そうだったの?
「最大の汚点とされるスターリン讃歌」〈森の歌〉は「小学生のころ母が好きでレコードをいつもかけていて全部覚えてしまうぐらい好きな音楽」とのこと。それも知らなかった。

2024年3月23日土曜日

スティーブン・ジョンソン「音楽は絶望に寄り添う」(2018)

スティーブン・ジョンソン「音楽は絶望に寄り添う」(2018)という本が2022年10月に河出書房新社から邦訳(吉成真由美訳)が出ていた。なんとなく読み始めた。
HOW SHOSTAKOVICH CHANGED MY MIND by Stephen Johnson 2018
重度の双極性障害で死の淵をさまよったBBCの教養番組プロデューサーの心を救ってくれたのはショスタコーヴィチの音楽だった!という本。
ショスタコーヴィチ研究学術本というわけでなく、スコアを詳細に分析するような音楽学の本でもなく、スターリン体制下の抑圧を生き抜いた天才作曲家の残した音楽が、いかに精神に傷を負った人々の心を癒すかというテーマ。

以前からモーツァルトの音楽が精神に良い、脳に良い、というようなことが言われてたけど、この本ではショスタコーヴィチのような暗くて重くて諧謔が盛り込まれた悲劇的な音楽のほうが音楽療法の現場では効果がある?!という本。

著者は番組制作のために以前、交響曲第7番のレニングラード初演メンバーの生き残りのクラリネット奏者に話を聴いたり、交響曲第5番の初演の現場にいた人にも話を聴いてる。それ、すごい。

ソロモン・ヴォルコフの「証言」(1979)にも触れている。本当にショスタコーヴィチがこんなこと言ったのか?今でも真義が定かでない本だが、ショスタコーヴィチという人は周囲の友人知人が、自分への当てつけのようにNKVDに連行され処刑され、人々が口をつぐむという、これ以上ない恐ろしい締め付け方をされた人。ショスタコーヴィチの生前の写真はどれも表情が固い。

スターリンを心の底から憎んでいたに違いないが、自分が殺されないためにはそのことを一切表面に出せない。1953年のスターリンの死後も共産党員になることをずっと拒んでた。
自然と自身を韜晦し仮面をかぶる。その発言はときに信条と正反対。今もほんとうの考えを知ることは難しい。

著者は交響曲第4番、第8番、第10番。弦楽四重奏曲第5番。オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」などにも言及。
第8交響曲は初演当時の当局と批評家を満足させなかった。第5交響曲で輝かしい復権を果たした作曲家の評価が再び下り坂へ転じる。酷評を書いてしまった作曲家ウラジミール・ザカロフ(誰?)は今日まで恥をさらしてる。

自分、交響曲はほとんどぜんぶ飽きる程聴いたけど、弦楽四重奏曲は番号を言われただけですぐに想い出せるほど聴きこんでない。第8番が演奏したことない団体を探すことのほうが難しいほど世界に浸透してたとは知らなかった。
自分は弦楽四重奏曲の14番、15番は今もほとんど聴かない。タナトスに充ち過ぎてる。聴き通すには聴く側に忍耐が必要。あと、「ミケランジェロの詩による組曲」はまだぜんぜん聴いたことない。今はネット環境さえあればどこでも聴ける。今後の課題。

そろそろ「証言」を読もうと思うのだが、古書店を探しても見つけたことがない。たまには図書館でも利用しようかと思う。

2024年3月22日金曜日

西野七瀬「ケンシロウによろしく」(2023)

西野七瀬が出演した「ケンシロウによろしく」(2023)を見てる。これは週刊ヤングマガジン連載のマンガを原作とし、バカリズム脚本、松田龍平主演でDMMで昨年9月~10月に配信された連続ドラマ。監督はなんと「電影少女」の関和亮
これは見なくていいか…と思ってたのだが、今年3月になって地上波で放送開始。じゃあ見ようかと。
ヒロイン坂本里香(西野七瀬)は病気の父の治療費を稼ぐために性風俗店で働いている…という役どころ。
店の客としてやってきた沼倉(松田龍平)がかなり変わった客。ほぼ無表情で謎に態度と自信が大きい。言葉遣いが横柄。

腕に自信があるマッサージで客を満足させようとしたら、逆に「揉ませろ」。
まあそうなるかと胸を「どうぞ」と差し出すのだが、そうじゃなくてマッサージさせろ。「やべえやつが来た」
沼倉が北斗の拳のケンシロウのようなマッサージの奥義を得た名人。たちまち里香を幸せな気分にさせる。サンバカーニバルを踊るような気分。そのへんの表現はベタ。

沼倉の技量に魅せられた里香は沼倉に入門するのだが、沼倉は知れば知るほど「やべえ」男。指圧マッサージでヤクザの木村(中村獅童)を殺そうと狙ってる。
木村はかつて小学生だった沼倉に暴力をふるい、母(筒井真理子)を奪い、ささやかながら幸せだった家庭を破壊した憎む相手。

沼倉は「北斗の拳」を愛読するあまり、指圧師として修業し人を殺せるツボで木村に復讐を誓う。そして里香を助手とし木村へ接近していく。
いやもうくだらない。たぶんバカリズム脚本なので予想はしていたが、とにかくバカバカしい。西野が心の中で沼倉にひたすらツッコむ。

ギャグ漫画なのでこんな感じだろうと思って観るのだが、沼倉の少年時代を悲惨なものにさせたヤクザ木村のシーンがマジすぎる。笑おうと思って観てるのに、そこマジに描いてどうすんの。
なんだか西野があまり可愛く見えない。第1話の回想シーンで高校制服姿とサンバシーンの西野は可愛かった。
だが以後、沼倉と一緒にいるシーンは大概どれもちょいブスに映ってしまっている。「あなたの番です」「アンサングシンデレラ」のころの光輝くような可憐な可愛らしさは見当たらない。もしかすると役作りのためにちょっと太ったのかもしれない。
第1話はとくに下ネタが多い。清純な西野になにやらす!って思ったけど、某俳優Yとツーショット写真を週刊誌に撮られてるのを見て、なんか冷めてきた。西野はもうそれほど可愛く見えないかもしれない。

2024年3月21日木曜日

宇野維正「ハリウッド映画の終焉」(2023)

宇野維正「ハリウッド映画の終焉」(2023)集英社新書1167F を読む。

子どものころにくらべて日本でのハリウッド映画の存在感が薄くなってる気がしてた。その代わりにアニメ映画がやたら増えた。好きな人は好きなんだろうけど、ハリウッド映画とハリウッドスターに今現在の若者はあまり憧れを抱いてないように思える。

ハリウッド映画のここ10年の変化を、音楽ライターで映画評論家の宇野維正氏が解説してくれる新書が昨年に出ていた。自分、映画評論とかハリウッド映画最新作とかぜんぜん追ってないので、なんとなく伝わってくることしか知らない。なので最新のハリウッドがどうなってるのか?映画は何処へ向かうのか?
カルチャーとしての映画、アートとしての映画はこれからも細々と続いていくだろう。しかし、産業としての映画、とりわけ20世紀中盤から長らく「大衆娯楽の王様」であり続けてきたハリウッド映画は、確実に終焉へと向かいつつある。
#MeToo運動、キャンセルカルチャー、コロナ禍、ストリーミングと映画館の衰退、スーパーヒーロー映画、ファンダム、名監督、ここ10年のハリウッド映画とそのとりまく環境の変化。
映画産業の明るくない未来を、ああ、そうだったのかとわからせてくれる。書き出しから衝撃的。

宇野維正さんはこれほどまで映画に造詣が深かったのかと驚かされた。コロナとキャンセルカルチャー下のハリウッドのヒット作を豊富な知識で次々と解説。「手ネット」「DUNE」「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」そして「TAR」ああ、そうだったのか!

という断定。映画館で映画を見るということは、美術館で名画を、オペラハウスでオペラを見るのと同じ位置づけになっていく…。

2024年3月20日水曜日

武田英子「地図にない島へ」(1990)

武田英子「地図にない島へ」(1990 農文協)を読む。
もらってきたので読む。小学校5・6年生向けの推薦図書だと書いてある。
たぶん、同作者による「地図から消された島 : 大久野島毒ガス工場」(1987 ドメス出版)の児童向けリライト版?
武田英子(1930-2006)は東京中野出身の児童文学作家。なんと巻末に調布市の団地の現住所が書いてある。

昭和62年の夏休み、広島県三原市の小学生ミキちゃんはずっと楽しみにしていた大久野島への家族旅行が父(新聞記者)と母(介護ヘルパー)の急な仕事でキャンセルにあい不満。
だが、さなえおばあちゃん(なんと57歳、今はこの年代をおばあさん呼ばわりしたら問題になるかもしれない)が呉線で忠海へ行き、フェリーで大久野島へ海水浴に連れて行ってくれた。

そしてさかえおばあちゃんの回想が始まる。戦争末期あの島へ、毒ガス製造のために学童が動員され、危険な物質を扱ったり運んだり、土塁をつくらされたり、将校にどなられたり、ガスや有毒物質が漏れだしたことで死んだり後遺症に苦しめられたりした人々のこと。そして島のうさぎたちのこと。

戦争はぜったいにいけないことだと誰もがわかってる今現代の価値観と常識で作られたドラマと違い、この時代は子どもから老人まで、国が戦争に勝つためにがんばる!という価値観が隅々まで浸透。その考えに何も疑いを持たない。

当時の常識的な子どもの正直な声。厳しくて怖い中尉さんに怒られるの嫌だなあとか、なんで日本もアメリカを空襲して仕返ししないの?とか、自分たちががんばって作った風船爆弾の戦果として数名のアメリカ人が死んだと聞かされても「わりに合わない」と思ったり、天皇陛下のラジオ放送の意味がまったくわからなかったり。子どもの率直な気持ちと感想。

そして広島の街の方向で謎の閃光。もうすぐ子どもが生まれるはずだった姉、などの親類家族、知人も巻き込まれる。
子どもが読むにはつらく悲しい現実。

2024年3月19日火曜日

横溝正史「金田一耕助の新冒険」

横溝正史「金田一耕助の新冒険」の2002年光文社文庫版がそこに110円で売られてたので連れ帰った。それなりに読み跡のある中程度のコンディション。昨年2月に購入し積読しておいたもの。

「冒険」を読んでないのに「新冒険」を先に読んでいいのか?ちょっと躊躇したけど、おそらくどちらを先に読もうと関係ない。昭和31年~38年に発表された短編を集めた一冊。
目次を見てみると、読んだことある作品がちらほら。

もう角川文庫版で読んでないのは残り数冊。「死神の矢」「魔女の暦」が読みたいけど角川文庫版は今日に至るまで程度の良いものを見つけられなかった。なのでこの光文社文庫版で読むことにする。読んだことがあるものも読む。
  1. 悪魔の降誕祭
  2. 死神の矢
  3. 霧の別荘
  4. 百唇譜
  5. 青蜥蜴
  6. 魔女の暦
  7. ハートのクイン
「悪魔の降誕祭」「霧の別荘」は久しぶりに読んだけど、こんなアッサリ突然の幕引きのような終わり方だったっけ?と多少驚いた。

「百唇譜」「青蜥蜴」「ハートのクイン」はすべて後に長編や中編に改題リライトされている。そちらは読んでいるのだが、内容がかなり違っている印象。

「死神の矢」は、結婚適齢期の娘の求婚者の中から、洋上に浮かべた的を弓矢で射る競技で決める。当たるわけないと思いきや、当てた求婚者がいる。だが、選に漏れた求婚者が殺されるという「ユリシーズ」のような展開。
「結局、片瀬における白箭殺人事件は、未解決のままに荏苒として時がすぎていった。」
という箇所で「荏苒(じんぜん)として」という言葉を学んだ。横溝先生はたまに難しい言葉を使う。

「魔女の暦」ストリッパー連続殺人。アプレゲールな若者たちは性が乱れすぎ。
「この女が一座のなかでもいちばん伝法な口のききかたをする。」
「伝法な口のききかた」という言葉を初めて知った。「伝法な」とは「粗暴で無法な」という意味だと、今回調べて知った。
さらに、犯人から不審な誘いの手紙でストリップ小屋におびき出され、殺人現場に遭遇し、等々力警部と出会って金田一さん
「なあに、ぼくだってたまにゃストリップ見物ぐらいしまさあね。浩然の気をやしなうってやつですかね。あっはっは」
「浩然の気をやしなう」という言葉を初めて知った。これは孟子からの言葉らしいのだが、調べてみてもわかるようなわからないような。

「ハートのクイン」で刺青の老彫師が交通事故死する現場が新宿御苑の四谷側(内藤町)にある多武峯神社というところなのだが、そこは一度も行ったことないな。
30年代の横溝作品は内容がゲスいものが多いな。

この文庫版は巻末に「金田一耕助の登場する全作品(少年ものを除く)リストが掲載してあって便利。まだ読んでない金田一ものがいくつかあるなと。探しても見つからないものは図書館をたよることになりそうだ。

2024年3月18日月曜日

遠藤さくら、黒部宇奈月キャニオンルートを行く

乃木坂46の遠藤さくら(22)が単身でNHK富山のローカル番組「トップアイドルとめぐる富山の絶景」という番組に出演。
昨年10月にロケ収録し、11月に「あさイチ」に遠藤が単身ゲスト出演したさいに番組内で一部紹介されていた。ちなみに遠藤は富山に過去2回来ている。TGC富山というイベントで。
1月放送の「ブラタモリ」とほぼ取材した場所が同じで、ほぼ内容がかぶってる。もしかして放送日をずらした?
「ブラさくら」は富山で2月23日に放送後、NHKプラスで全国にも配信。
この番組がブラタモリ同様、普通の旅行者が体験できないことまで紹介してる。
川原の大露天風呂に足湯で入ると「通常は足湯で入れません」とか、温泉が吹き上がるところを見せて置いて「見れません」とテロップが出る残念さ。
遠藤さくらはトップアイドルグループ乃木坂46の人気メンバーと言える存在だが、どちらかというと見た目が素朴。それほど美少女感とアイドル感がしない。
観光の情報番組も大切な仕事。乃木坂は日々たくさんのテレビ番組に出てるうえに配信でも各地に旅行レポ動画などもUPしてる。そのすべてをチェックできないのだが、今回は見てみようと思えた。遠藤が単身外仕事に乗り込んでいってるから。
自分は過去2回富山にいったことがある。いずれも富山市の中心部だけで、黒部峡谷も宇奈月温泉も未踏地。いつか行ってみたいけど、そんな機会があるかどうかはわからない。
食レポも反応も普通なのが遠藤。それほど陽な感じを出さない。微笑んではいるけどアイドルらしくはない。
宇奈月温泉では電気バスが走ってる。これはスイスのツェルマットをモデルにしたそうだが、実は自分はツェルマットに行ったことがある。信じられないかもしれないが本当だ。
電気バスって村内を流して走ってる。道路わきでただ単に休んで突っ立ってると、バスが音もなく近づいてきて「乗るのか?」って感じで止まってくれるのだが、慌てて「乗らない!」とアピールしないといけなかった想い出。
宇奈月温泉はオーストリア・ザルツブルクにも似てるということで、モーツァルトで町おこしをもくろんでる。

20数分間の番組で、遠藤が画面に映っていた時間はおそらく半分ほど。富山を紹介するのがメインの番組だし。
遠藤とずっと行動を共にしたNHK富山のアナウンサーが、おそらく遠藤からしたら握手会やミーグリでよく見るタイプの人物に見えたのではないか?と思った。
自分はそれほど遠藤を追ってないのだが、あまりネタもないので備忘録としてここに記録した。

2024年3月17日日曜日

山田詠美「ラビット病」(1991)

山田詠美「ラビット病」(1991)を新潮文庫で読む。これも無償でいただいてきた本。

身なりに気を遣わず、気分屋でだらしなく、働いてもいないが遺産を相続してお金はたくさんあるというゆりちゃん。
横田基地に勤務する、バカだけど真面目なロバちゃん(ロバート、黒人)のふたり。
うさぎのようにいつもぴったり一緒にいるバカップルの日常を描いた9本から成る短篇集。

これ、ギャル雑誌にでも連載されていたのか?って想ってしまうほど、読むのに学は必要ない。すごく平易。難しい言葉も表現もない。たぶん小学生でも読める。だが、内容はセッ○スなので、高校生以上でないとダメだろうと思う。

あと、ゆりちゃんの話す言葉が平成ギャル語口語体なのでさらにバカっぽい。ほぼ童話のようだし、ゆるキャラ漫画やアニメのよう。大人の読者が読むべき本ではないかもしれない。
この本を好きだという読者は主に若い女性だろうと思うのだが、ロバちゃんのような男性はおそらくこの世にほとんどいない。たぶん横田基地勤務の軍人・軍属には絶対いない。

なお、この本の「双子届」という章に、16号沿いの横田基地に面した場所にあるタンタンメンが名物だというラーメン屋が登場する。そのラーメン屋は同じ場所にたしかに存在する。「福実」という店だが、自分は過去に3回ほど立ち寄ったことがある。カウンターとお座敷席があるごくふつうのラーメン屋。タンタンメンがあったかは覚えていない。あそこはチャーハンが美味しい。

あと「すあまのこども」という章があるが、「すあま」という和菓子を関西出身の友人はまったく知らなかったという。